これを書いている今(2019年3月)、ちょうど新たなアニメ化作品が放送中の『どろろ』ですが、こちらは1969年の最初のアニメ化作品です。原作は漫画の神様手塚治虫先生ですね。この1969年版のアニメは虫プロダクションとフジテレビの共同製作だそうです。さすがにリアルタイムでは見てません。見たのはつい最近、動画配信にてです。
重厚
ストーリーは2019年TVシリーズでも書いた通り、父親の野望のために生まれながらにして四十八の魔物に体の四十八か所の部位を奪われた状態で生まれてきた百鬼丸という少年が、魔物を倒しながらそれらを取り返していくというもの。こんなお話よく考えついたなーと思います。これは原作のすごさですね。
さて、アニメの方なんですけど、まず驚かされるのが、そのクオリティの高さです。特に演出。モノクロということもあるのですけど、まるで黒澤明監督の撮った時代物の映画を見ている感覚に陥りました。『羅生門』とか『隠し砦の三悪人』とか『赤ひげ』とか。つまりいい意味で重厚。だからこれだけ時代を経ていてもまったく古びていません。
それもそのはず。私、今回Wikipediaを見て初めて知ったんですけど、演出に出崎統さん、富野喜幸(現:由悠季)さん、高橋良輔さんという、そうそうたるメンバーが名を連ねているんですね。富野さんは『海のトリトン』の演出をされていたので虫プロ出身って知っていましたけど、ほかのお二方もそうだったんですね、知りませんでした。
でも、そのシリアス重厚路線は第十三話まで。第十四話以降はがらっと方向転換して、子供向けの分かりやすい妖怪退治ものになっちゃいます。サブタイトルもそれまでは『〇〇の巻』と渋かったのに、第十四話は『妖怪かじりんこん』になっちゃうという……。そしてなんと、タイトルまで『どろろと百鬼丸』に変更されるという、とんでもないことになっちゃってます。このあたりの事情もWikipediaに詳しく書かれていますのでご関心ある方はそちらを参照いただければ。それにしても、当初の路線で最後までいっちゃってたら、とんでもない傑作が生み出されたことでしょう。つくづくもったいないです。
とはいえ、一応最終話は帳尻を合わせるかのように、元の路線に戻っています。ここでようやく第十三話までのオープニングに出てくる農民一揆も登場します。
オープニング主題歌
そうそう。『どろろ』といえば、あのオープニング曲です。私もあの主題歌だけはなぜか知っていました。一度聴いたらなかなか耳から離れないあの曲を作曲したのは世界的に有名なキーボード奏者でもある冨田勲さんです。劇中の音楽も手掛けています。
この主題歌、『どろろの歌』は、曲調も歌詞もすごくコミカルなんですけど、その曲に合わせて流れる映像が農民一揆というのが、インパクト大です。この作品、舞台は室町末期から戦国時代にかけて。当然のことながら、戦や圧政によって苦しめられる農民たちの姿が(特に十三話まで)たくさん出てきます。どろろというキャラクターは、そんなハードな時代をしたたかに生き抜いていく存在として描かれています。
政治の季節
1969年といえば、ベトナム戦争の真っただ中、学生運動の東大安田講堂攻防戦があった年です。私にはその時代の空気を知る由もありませんけど、今よりも明らかに政治の季節だったことは確かでしょう。恐らくその当時の時代の持つ空気感とこの作品の持つ(第十三話まで)テーマがうまく合致しているのだと思います。
翻って、2019年版『どろろ』は、では今の時代に対してどのような切り込み方をするのか、とても興味深いのですけど、それはまたいずれアニメモランダム2019年にて。
つらつらと書きたいことが尽きないのですけど最後にひとつ。百鬼丸役の野沢那智さんの声が素敵すぎ。ベルばらのフェルゼン(もうほんと最高です)はじめ、とにかく私的男前声ナンバーワン(ナンバーツーは山ちゃん)の那智さんの声が聴けるだけで至福でした。マジかっこいいです。
ではまた!