『宇宙よりも遠い場所』 第十二話

©YORIMOI PARTNERS

 確かに私は最近、若い頃と比べると、めっきり涙腺が弱くなっています。なっていますよ。なっていますけど。

 アニメ見て、こんなに号泣したの、初めてだよ。

 言葉が出ないよ。でも書くよ。

絵コンテ演出

 今回、絵コンテに監督自ら名を連ねているだけあって、ここ数話とは明らかにレベルが違っています。地に足の着いた、しっかりとしたコンテだと思います。演出も気合入ってます。

 これまで同様、派手なところはありません。でもこれまで築いてきた彼女たち四人の関係性と、しらせちゃんの思いと、隊長の思いがすーっと入り込んできます。

 自分の気持ちって、なかなかうまくつかめないものです。前半は、そんなしらせちゃんの戸惑いがすごく自然に、うまく表現されていました。

 そして、ラスト。

 あまりにも見事な伏線回収です。そこで改めて自分の気持ちを目の当たりにして、自分の思いに気付かされたしらせちゃんと、部屋の外の三人。

 あーん。もうだめです。

 そうだよね。一話からずーっと出てきてた伏線だもんね。普通回収するよね、花田十輝さん。でも、ずるいよ。ハンカチ用意してたけど、タオルが必要だったよ。水たまりだよ。花粉症だから、鼻水でぐちゃぐちゃだよ。

史上最高級の伏線と回収

 何がどうすごいのか、もう少し詳しく書いておきます。今回の最大のポイントは、しらせちゃんがずーっと自分の中で解決できなかったお母さんへの気持ちにきちんと決着をつけるというものです。そして、今回『宇宙よりも遠い場所』という、タイトル回収回ということから分かるように、最重要回でもあります。

 しらせちゃんは、南極で行方不明になったお母さんに対して、ずーっと複雑な思いを抱き続けていたわけですね。で、はるばるその南極まで来て、お母さんが消息を絶った場所に来ることで、しらせちゃんは自分の気持ちに決着をつけようとしている。でも、もしも、その場所へ行っても心の中の決着がつかなかったら。しらせちゃんは葛藤と不安を抱えているわけですね。

 さて。落としどころとしては、何かのきっかけで、しらせちゃんはこれまで自分でも気付いていなかった自分自身のお母さんに対する気持ちに改めて気づく、そんな展開が予想されます。そして実際、そういう展開が待っています。そこはある種王道で、何も奇をてらったこと、斜め上の展開でびっくりさせるようなことはしていません。していないんですけど、問題は、どういうきっかけで、どういう気持ちに気付かせるのか、その方法、道すじです。

 例えば、お母さんのPCの中にしらせちゃんへのメッセージが残っていて、それをきっかけに、しらせちゃん自身も忘れていた出来事を思い出す、みたいなことはたぶん誰でも考える展開だと思います。なので、すっごくダサいです。うまく伏線を張って、丁寧に処理すれば……と思わなくもないですけど、これまでしらせちゃんの回想シーンは何回も出てきているし、これまでしらせちゃんは昔のことを嫌というほど繰り返し反芻していると思うんですね。なので、そういう展開はあまりにもご都合主義的で、とってつけた感がある。

 では、花田さんはどうしたか。第一話から、しらせちゃんは、お母さんにメールを送っているんですよね。具体的な内容までは細かく出てきませんけど、たぶん、しらせちゃんが体験したいろんな出来事を、しらせちゃんはお母さんにメールで報告していたんですよね。私、あのメールはただ書いているだけで、実際には送信していないものだとずーっと思ってました。でも、違ってた。しらせちゃんは、お母さんに、本当にメールを送っていたのです。届くかどうかも分からない、届いていても見る人はもういない、一方通行のメールを送り続けていた。これだけでも結構ぐっとくるエピソードですけど、花田さんはこれをしらせちゃんの気持ちを表すための伏線として仕込んでいるんですね。

 つまり、しらせちゃんにとってお母さんの存在は、常にしらせちゃんとともにある、しらせちゃんは常にお母さんのことを思っていて、その日あったことを報告して、ずっとその存在を感じている、そういう存在だったわけです。それが、あの大量のメールの履歴となって、目に見える形で、一気に表出したわけです。見ている私たちも、しらせちゃんがお母さんにメールを送っていた(少なくとも書いていた)ことは知っています。つまり、しらせちゃんのその行為を目撃しているわけです。実際に登場人物と同じ時間軸で、登場人物の気持ちの核となる行為を目にしていた。これは、過去にこういうことがありました、というように後付けで情報を得るのとは、雲泥の差です。ものすごく説得力がある。

 あの、大量のメールの履歴を目にしたとき、私たち観客はこう思ったはずです。「ああ、そういうことか」と。しらせちゃんは、ずーっとお母さんとともにあったんだ、と。そして、しらせちゃんもこう思ったはずです。「ああ、そういうことか」と。自分は、ずーっとお母さんとともにあったんだと。

 素晴らしいです。本当に、素晴らしい伏線と、回収の仕方だと思います。後世に残る、すごい伏線回収だと思います。私はネット界隈にはとんと疎いので、一般的にこの回がどのような受け止め方をされているのかわかりませんけど、この回の花田さんの脚本、私的にはものすごい出来事です。いえ、この回だけでなく、この作品、本当に素晴らしいです。というわけで。

 もう、今年のベストワン、決定だよ! (って、早っ)

タイトルとURLをコピーしました