『SSSS.DYNAZENON』 第十二話(終)

©円谷プロ ©2021 TRIGGER・雨宮哲/「DYNAZENON」製作委員会

 最終話を迎えてしまいました。あっという間でした。面白かったです。

ラストバトル

 瀕死のガウマさんを交えた最終決戦で、シズムくん怪獣に勝利。熱いバトルは、お決まりの展開ですね。で、その際、蓬くんに怪獣使いの素質があることが明かされます。これは第八話で張られた伏線の回収ですね。ただ、その事実が意味するもの、その先のことは明かされません。バトルが終わり、結局ガウマさんは力尽きてしまいました。合唱。私、結構ガウマさんと蓬くんのお母さんとのやり取り、好きだったんですよね。

 で。戦いが終わって、それぞれの新しい生活が始まっているわけです。そこには怪獣が出現する前とは明らかな変化があります。もちろん、前向きな変化が。さて、ここまで見てきた人が、この登場人物たちのそれぞれの変化に対してどう感じるかによって、この作品のもたらす意味が変わってくる、そんな気がします。

傷ついた魂は星のように輝く

 ラスト近く、蓬くんはシズムくんとのやり取りを回想します。おそらく、ラストバトル中に交わしたやり取りなのでしょう。そこで、シズムくんは怪獣使いの素質のある蓬くんに問います。人の理の外にいる怪獣の力があれば、あらゆることから解放されるのに、いいの? と。自由を失っていくけどいいのか、と。それに対して、蓬くんは、自由を失うのではなく、かけがえのない不自由をこれから手に入れていく、と答えるんですね。

 これ、怪獣がいる世界、あらゆることから自由になれる世界というのは、言ってみれば人類補完計画ですよね。それに対して、主人公はATフィールドのある世界、不自由な世界を選ぶ。蓬くんたち四人には同じSの傷が残り、さらにこれから不自由な世界で、体だけではなくて心もいろいろと傷ついていくことになるのでしょう。でもそういう世界を主人公は選ぶ。根本にあるのは旧エヴァと同じテーマです。ただ、旧エヴァと決定的に違うのは、今作が非常にリアルな描写でテーマを支えているという点です。

テーマを支えるリアルな演出

 十二話まで見終わって、これまでを振り返ったとき、私が真っ先に頭に思い浮かべる場面は、なぜか暦くんの部屋なのです。あのいかにもニートなごちゃごちゃとした部屋のベッドに暦くんがいて、そばにちせちゃんがいる、あの空間。なんか居心地よさそうなんですよね。でも、たぶんもうあの部屋はきちんと片付けられているのでしょう。

 不自由な世界を選ぶという選択自体は、旧エヴァと同様の本作ですけど、その不自由な世界の実態は、確実に本作のほうがよりリアルです。特に、暦くんが踏み出す世界は、かなりしんどいと思います。これ、見る人によっては、あーしんどいなー、と思うのではないでしょうか。もちろん、世間一般的にはそういうわけにはいかないんですけど、あのニートな部屋にいるほうが楽ちんですよね。選択したのは蓬くんで、暦くんではないんですけど。ただ、不自由な世界の不自由さを強く感じる人にとって、この作品はある意味、深い印象を残すのではないでしょうか。前述の、この登場人物たちのそれぞれの変化に対してどう感じるかによって、この作品のもたらす意味が変わってくる、というのはそういう意味です。

 今作は、いじめや登校拒否、肉親の死、ニート、親の再婚といったシリアスな要素が組み込まれています。そういった問題を抱える登場人物たちが、怪獣と戦うことで直接的にではないですけれども、少し変化がもたらされる。その少し変化した世界は不自由なわけですけど、登場人物たちは前を向いているわけですね。そんなテーマを、一般的なアニメの演出からは外れた、いい意味で稀有な、リアルな日常の演出が支えている。なかなか噛み応えのある作品だといえます。

 ただ、少しだけひっかかるのは、怪獣がいる世界のほうが自由だというシズムくんの言葉への裏付け、実感みたいなものが、少なくとも私には感じられなかったことです。言葉としては理解できるのですけど、怪獣の魅力みたいなものが、あまり感じられませんでした。怪獣なんてほんとはいちゃだめなんだけど、でもそういう世界にひかれてしまう、そんな感じがあればよかったのですけど。

 その部分だけ見ると、旧エヴァの選択のほうが、主人公にとって重い感じがします。主人公にとっての現実世界の生き辛さ、みたいな感じは、切実でした。君、そっち選んで本当に大丈夫? って思っちゃいましたから。今作は世界がリアル、旧エヴァは主人公の抱える葛藤がリアル。そんな感じです。

 ただ、今作でも一応、夢芽ちゃんが、怪獣がいたときのほうが、普通のことしてた、的なことを言うシーンはあるのですけど、それだけだとちょっと弱い気がします。ただ、これは、私自身が深く読み解けていない部分があるかもしれず、ちょっと保留ですね。

 ともかく、楽しませてもらいました。どうやら次回作の存在がほのめかされているようですので、今後も楽しみです。

タイトルとURLをコピーしました