『SSSS.DYNAZENON』 第一話

©円谷プロ ©2021 TRIGGER・雨宮哲/「DYNAZENON」製作委員会

 今期最も注目している作品です。なぜならば、あの超傑作、『SSSS.GRIDMAN』と同様の製作スタッフだからです。

 さっそく第一話。冒頭から思いっきり引き込まれます。ほかのTVシリーズとは明らかに一線を画しています。タイトルが出るまでの数カットでこれです。もう無茶苦茶期待しちゃいますよね。基本的な演出スタンスは『SSSS.GRIDMAN』を踏襲しているようです。いくつかポイントを挙げておきます。

自然体

 まず、声優さんたちの自然な演技。特に若い世代の登場人物たちの自然体な空気感が素晴らしいです。一方で、ガウマのような、いかにもアニメのキャラクターといった登場人物もいて、そのバランスの取り方も絶妙です。

ノンBGM

 あと、ノンBGM(そういう言葉があるかどうかは知りません)。『SSSS.GRIDMAN』と同様、この第一話もBパートの途中まで、一切BGMが使われていません。すごい。かっこいい。音楽をあの鷺巣詩郎さんが担当しているにもかかわらず、です。BGMを使わないことと、声優さんたちの自然な演技とが相まって、不思議なリアル感を伴った独特の作品世界を構築しています。

合唱曲

 そして、合唱曲。冒頭、初めて夢芽ちゃん登場のシーンで、彼女は歌を口ずさんでいます。はい、きました。これ、『少年の日はいま』っていう合唱曲です。『SSSS.GRIDMAN』でも、初めて六花ちゃんが登場したときに、彼女は『Believe』という合唱曲(もともとはTV番組のエンディング曲)を口ずさんでいましたよね。あと、夢芽ちゃんと友達が学校で会話するシーンでも、校内の風景カットにOFFで、かすかに生徒たちの合唱の歌声が聞こえてきます。これも『SSSS.GRIDMAN』と同じです。こちらの曲は『はばたこう明日へ』という合唱曲ですね。もちろんこれらの曲は初めて知りました。エンディングのテロップからです。

 『SSSS.GRIDMAN』では、『心の瞳』という曲がすごく効果的に使われていました。これ、もともとは坂本九さんの曲で、それがいつしか学校の合唱曲として使われるようになったんですけど、それについてはアニメモランダム2019年の『SSSS.GRIDMAN』に書いています。この『心の瞳』という曲、すごくいい曲で、思わずCD買ってしまいました。で、合唱曲を使うという発想自体がまず、すごいなと思いました。学校で歌った曲って、それを聴いただけでその頃のことを追い出す強力な装置となりうると思うんですね。実際、二十代後半の子に質問したんですけど、『心の瞳』、学校で歌ったって言ってました。それと、合唱曲の持つ感じ、シンプルで力強くて若々しいあの感じが、若者たちをナチュラルに描く演出とすごくマッチしていて、よく思いついたなーと感心します。今回もたぶん『少年の日はいま』と『はばたこう明日へ』はこの先、効果的に使われるはず。曲調からして『はばたこう明日へ』かな。どちらもすごくいい曲です。

脚本

 そして、やはり何といっても、脚本のすばらしさ。例えば、第一話は主に蓬くん夢芽ちゃんサイドと、暦セインパイちせちゃんサイドがカットバックで描かれているんですけど、センパイとちせちゃんの最初の会話、「センパイ、もうすぐ法事っすよ」とちせちゃんが言うんですね。のちに、二人の関係はいとこ同士ということがちせちゃんの口から語られるんですけど、冒頭の段階では二人がどういう関係かは分かりません。でも、ちせちゃんがいとこ同士と述べた段階で、ああ、なるほど、となります。それで、「法事」か、と。たぶん二人の関係は、本当にいとこ同士だということ、そこは勘繰らなくてもいいよ、と作り手たちが提示しているんですね(もちろんこれは絶対ではなく、どんでん返しもあり得ますけど)。少なくとも、二人の間では、いとこ同士という共通の認識が持たれているわけです。これ、セリフだけでその二人がいとこ同士だというのを自然に表すのってすごく難しいと思うんですけど(不自然で頭の悪い方法はいくらでもありますけど)、うまいです。いとこ同士なので、普通はお兄ちゃんと呼ぶのでしょうけど、それだと実の兄かな、と誤解を招きますし。この「法事」ネタは第四話の戦闘シーンでもまた出てきますね、私も気に入りました。

脚本と演出

 それと、蓬くんがお母さんと、お母さんの再婚相手候補らしき男性と食事をするシーン。なんかイヤーな感じの男ですけど、で、そういう感じをかもし出すのもうまいんですけど、その男が蓬くんに入学祝だとお金を渡すんですね、ポチ袋に入った。次に、食事が終わって、店を出ようとしている三人のカット。蓬くんだけレジの前に立っていて、呼ばれて三人が立ち去る、そのあと、お店のレジに置いてある募金箱の中に、蓬くんが男からもらったポチ袋が入っているカットが入ります。うまいですよね。蓬くんのセリフも使わず、モノローグも使わず、たったワンカットで蓬くんの気持ちが表されています。たぶん蓬くんは男に良い印象は持っていないし、かといって積極的に再婚を反対するほどの理由もない、もしかしたら自分の存在に気まずさを感じているかもしれない。そして、どうしてアルバイトばっかりして早く自立したいと思っているのかも分かります。たったワンカットで。

 次のシーンは夢芽ちゃんの家庭のシーンです。ここでも、語りすぎない脚本と演出が光ります。ここではまだ直接的には語られませんけど、どうやら夢芽ちゃんの姉妹が最近亡くなったこと、母親の「何も同じ学校に行かなくても」というセリフから、どうやら夢芽ちゃんのお姉ちゃんだということ、それが原因で父親と母親の仲がぎくしゃくしているということが分かる。特に、父親と母親との言い争いが、部屋の外から聞こえる、その遠くから聞こえてきている感じがすごくうまいです。あえて、はっきりとセリフを聞き取らせようとしていないですよね。これ、凡庸な脚本家だと、この両親の会話でお姉ちゃんの死について語らせちゃうんですけど、そんなアホなことはしません。食器を片付けろとか、そんな些細なことで言い合っている。それがすごくリアルです。

『怪獣使いと少年』

 あ、そうそう、この作品に「怪獣使い」という言葉が出てきます。ガウマや怪獣優性思想たちは自分たちのことを「怪獣使い」と呼んでいます。「怪獣使い」というと、特撮に詳しくない私でもすぐに思い浮かべるのが『帰ってきたウルトラマン』第33話『怪獣使いと少年』です。ウルトラマンシリーズって、特に『帰ってきたウルトラマン』まで、むちゃくちゃ濃度の高い脚本・演出の回があって、この回はそのなかでもさらに群を抜くとんでもない傑作なのですけど、語りだすと完全に脱線していくので、とにかくヘヴィな内容だとだけ書いておきます。もしも、これをモチーフにしているのなら、かなりヘヴィな展開の可能性も、と思っています。ただ、私は実写版の『電光超人グリッドマン』は見ていないので、そちらに「怪獣使い」というモチーフが出てきていれば、また別の可能性はありますけど。

 いずれにしても、引き続き楽しみに、追いかけたいと思います。

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