『MARS RED』 第七話~第八話(+第一話再見)

© 藤沢文翁/SIGNAL.MD/MARS RED製作委員会

 私、テレビアニメはレコーダーのハードディスクに録画したものを見て、「これは」と思ったものはブルーレイディスクに保存しています。アマゾンプライムやdアニメストアでたいていの作品は見ることができるのですけどね。で、「これは」の基準はいろいろとあるのですけど、この作品は将来見返すことがあるだろうな、というのがやっぱり大きいです。この作品もたぶん見返すことになると思います。

脚本の強度

 将来見返すだろうな、と思わせる作品がある一方で、別に面白くないわけではないけどこれはもう二度と見返すことはないだろうな、と思う作品もあります。その違いって、やっぱり脚本の力が大きいです。例えば、主人公が朝、学校に行くシーンがあるとします。もしもそのシーンが、本当に主人公が学校に行くことを表すためだけに描かれていたとしたら、それはまずい脚本だと言わざるを得ません。実際にそんな作品はよくありますけど、そんな作品を繰り返し見たいとは思いません。

 それに対して、一見何でもないシーンにも、意味がちゃんと備わっていて、しかも、複数の意味が込められているような脚本は、繰り返しの鑑賞に堪えられる強度を持っているといえます。この作品はもちろん後者ですね。

第一話を見返す

 この作品、第六話でひとつの山場を迎えて、第七話、第八話は後半への橋渡しのような役割を持っています。ただ、この二話、とても重要で、特に第八話は第一話の前日譚として描かれていて、第八話を見た後に第一話を見返すと、最初に見た時には気が付かなかった細部に意味があることが分かって、とても興味深いです。

 最初に第一話を見たときは、『サロメ』のモチーフに引っ張られすぎて、こまごまとした部分まで注意が向きませんでした。例えば、岬が前田少佐に「かわいい字」と言うシーンがあります。このとき、前田少佐は月島の地下の取調室(?)で、岬の言動を調書に記録しているのですけど、左手で文字を書いているんですね。その少し前に、前田少佐は中島中将から、右手はもういいのか、と訊かれています。つまり、右手を怪我していたということです。さらに言うと、この怪我は戦場での負傷で、そのとき中島中将に助けられたということが後から出てきます。中島中将に前田少佐は、使えます、と答えるのですけど、左手で文字を書いているところを見ると、まだ完治はしていないということですね。慣れない左手で書いた文字だから、いびつな形で、それを見て岬は「かわいい字」と言ったわけです。

 うかつにも、私は第一話を見たときに、この部分、まったく注意を向けませんでした。見返すまですっかり忘れていました。だめですね、ぼーっと見てると。前田少佐と岬との関係も、なんとなくは理解していましたけど、第八話までを見てから第一話を見返すと、その関係性がより一層深く理解することができます。前田少佐はほとんど感情をあらわにしませんから、何を考え、何を感じているか、よく分からないのですけど、第一話を見返すと、些細なしぐさなどに彼の気持ちの変化を読み取ることができるようになっています。

 私は原作である朗読劇を見たことがないのではっきりとしたことは言えませんけど、前述の、字をめぐる岬とのやりとりなどは、おそらく朗読劇で表現することは難しいと思います。映像作品ならではの表現方法であり、演出手法です。繰り返しの鑑賞に堪えられるだけの脚本であるだけでなく、映像作品の演出としてもすぐれた作品であると言えると思います。

 まったく予備知識なく、特に期待もせず見始めたこの作品ですけど、非常に楽しませてもらっています。ここからの展開が全く読めませんけれども、どうなるのか、すごく楽しみです。

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