『かげきしょうじょ!!』 第七話~第九話

© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会

 第四話くらいまで、私はこのお話、奈良っちこと奈良田愛ちゃんと、渡辺さらさちゃん、この二人のお話、この二人を主軸としたダブル主人公的なお話だと思っていました。最初は原作を読んでいませんでしたし(今は最新十一巻まで読んでます)。でもどうやら少し違うみたいです。これ、たぶん群像劇ですよね。おそらくシリーズ構成の森下直さんは、歌劇音楽学校に在籍する七人の女の子たちの群像劇をやろうとしているのではないかと思うのです。

第七話

 第七話、いよいよさらさちゃんの回。これ、原作では四話分(原作第五幕~第八幕)、第二巻まるまる一冊分あるんですね。なので、てっきりアニメでは二話くらいかけてやるんだろうと思ったら、なんと、第七話だけでやっちゃいました。びっくりです。

 でもじゃあ、アニメは物足りなかったり駆け足だったかというと、そんなことはないんですよね、これが。うまいです。必要最低限のシーンを選び取って一話の中に収めています。特にさらさの彼氏(?)暁也くんのエピソードなんかが結構思いきってばっさりと切ってるんですよね。原作を読んじゃったから正確な判断はできませんけど、特に感じませんでした。さすがプロです。

アニメで舞台を描くということ

 今回、歌舞伎のシーンが出てきます。この作品、少なくとも原作のテーマは「演じる・舞台に立つということ、または演技・舞台として表現されたものを人に伝えるということ」だろうと、前回書きました。アニメでもある程度このテーマに軸足を置いているように思えます(プラス、群像劇だと思いますけど)。だとすると、避けて通れないのが舞台のシーンです。

 おそらく、アニメで舞台を描くのは非常に難しいと思います。演劇的要素・演出を取り入れたアニメは別に珍しくはありません(『少女革命ウテナ』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』など)。でも、実際の舞台のシーンを、それも舞台の素晴らしさを、アニメーションで描くのは、あくまでも素人考えですけど、かなり無理があるのではないかと思うのです。

松本人志さん・庵野秀明さん対談

 これ実は先日アマゾンプライムでやっていた、松本人志さんと庵野秀明さんの対談にも出てきた話題なんですけど、舞台を見ている観客って、映像作品と違って固定・フィックスのカメラの視点です。カット割りも、パンもズームもありません。ただし、舞台上の演出や役者の動きによって、観客が注意を向ける場所は常に変化していきます。そして、その注意の向け方は、観客がそれぞれ自分の感覚で行っています。

 対談で、庵野さんは、もし自分が漫才の舞台を撮るなら、カメラは客席から固定のまま、回し続けるだろう、みたいなことを言っていたんですね。テレビでやっている漫才の舞台を見ていると、自分の感覚とは違うカメラのカット割りになっていて、そういうのが嫌だ、と。なんでそこでカット割るかな、みたいな。ただ、カメラ固定で舞台を描くというのをアニメーションでやろうとすると、アニメーションの持つ表現方法のほとんどを封じることになってしまいます。

アニメ『かげきしょうじょ!!』の歌舞伎

 今回、歌舞伎の舞台シーンが出てきます。原作では、歌舞伎の演者の迫力を強調した描かれ方をされていて、その魅力を表現しようとされていました。では、アニメではどうだったか。

 奈良っちとさらさちゃんが歌舞伎を見に行くシーンが登場します。そこに出てくる舞台のシーンはほとんどが止め絵なんですね。ワンカットだけ、助六の踏み出しの足のアップで動きのあるカットが出てきますけど、あとはほぼ、止まった絵です。舞台よりも、それを見ているふたりの反応を描くことに注力されています。

 さまざまな理由があるでしょうけど、やはり正面から舞台をアニメで描くことを避けているな、と思いましたし、その判断は賢明だと思います。

 と、偉そうなことを書いていますけど、私自身、ナマの歌舞伎を見たのは二回だけです(しかもそのうち一回は『ワンピース』)。歌舞伎、すごかったです。面白かった。古典のほうは『義経千本桜』だったのですけど、かっこよかった。できればもっと見に行きたいのですけど、なかなかそこまで手が回らず(『ワンピース』も想像以上によかったです)。やっぱり、ナマの舞台って、面白いです。

第八話

 原作まるまる一冊分(原作第五幕~第八幕)を、一話に圧縮したアニメ第七話でしたが、アニメ第八話は原作の一話分(スピンオフ)です。第七話以降、いずれも主要登場人物たちを一話分で描こうという構成になっています。で、この回は、星野薫さんの回ですね。祖母、母と三代続けて歌劇学校に入学している、いわゆるサラブレッドというやつですね。もちろん彼女も彼女なりの悩みはあるわけで。彼女が高校生だったときのひと夏のエピソードが描かれます。

第九話

 第九話は原作の三話分(原作第九幕~第十一幕)を描いています。双子の千夏ちゃん、千秋ちゃんのお話ですね。これも結構な分量なんですけど、うまく省略しつつ収めていて、さすがです。原作からの大胆な変更と省略を行っています。この回の脚本は、猪爪慎一さん。存じ上げてませんでしたけど、キャリア長いです。そしてこの方も『暁のヨナ』に参加。益々気になってきました。

第十話と第十一話以降の予想

 次回第十話は、タイトルから判断するに、運動会の回ですね。運動会エピソードを一話分かけてやるということでしょう。もしかしたら、後半は、次のエピソードへの布石が入るのかもしれません。全十三話ですから、残りあと三話。ということで、十一話以降の予想をしちゃいます。

 たぶんラスト三話は、予科生たちの『ロミオとジュリエット』オーディションエピソードだと思います。

 私は、アニメで舞台そのものを描くのは非常に難しいだろうと書きました。でも、演じること、どうすればうまく役を演じることができるのか、役を演じるとはどういうことなのかを描くことは、アニメという表現手法にとってはまったく問題はありません。

 たぶん、ラスト三話で、主要登場人物たちが、どのようにしてそれぞれに割り当てられた役を演じるのか、が描かれることになると思います。そして、その時に重要になるのが、これまで彼女たちがどのような経験を積んできたか、ということです。つまり、第一話から第九話までを費やして描かれてきた、彼女たちのこれまでが、演技に直結していく、彼女たちのこれまでがあったから、彼女たちなりの演技・芝居ができる、そのような脚本・演出が行われるではないかと想像します。

 原作もこのオーデイションのエピソードは素晴らしくて、また、アニメ化する際の自由度も非常に高いので、どのような表現になっているのか、わくわくしています。たぶんラスト三話は神がかった回の連続になると予想しています。

 楽しみです!

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