今回、お話が大きく動きました。重要回ですね。そしてある意味、特異な回といえます。
作画の違和感
まず、今回の作画、これまでとは明らかにテイストが違っています。作画監督は五十嵐海さんですね。パースを強調した、昔でいうところの金田伊功さんみたいな絵柄です。正直って、私は苦手な絵なんですけれども、好き嫌いは置いておくとして、私はこの作画、かなり違和感を感じました。
これまで、この作品はどちらかというと日常パートのリアル感が前面に押し出されていて、怪獣優性思想やガウマのような漫画的なキャラクターを配置しても、それさえも日常として飲み込んでしまうくらい、非常に質の高い、リアリティのある演出で魅せてきました。それが今回、このような極端にデフォルメされた作画を突然放り込んでこられると、ものすごい違和感です。今回の内容が、怪獣に飲み込まれた登場人物たちが過去の自分と対峙するという、ドラマチックな展開だとしても、私は明らかに作品と作画がミスマッチだと思います。
例えば、蓬くんが怪獣の中で過去世界の夢芽ちゃんを見つけます。でも、透明な壁に隔てられて、そちら側へ行くことができません。それを必死で突き破ろうとします。傷だらけになりながら、蓬くんはもがくわけなんですけど、そしてそれを動きを強調したアニメチックな作画で表現しているのですけど、はっきり言って、まったく刺さりません。なぜなら、これまでリアルに描かれていた登場人物が、突如マンガチックなキャラクターとなってしまったからです。それは、ずっと実写で撮影されていた作品の登場人物が、いきなりアニメのキャラクターに変わっちゃったくらいの感覚です。
作中で、蓬くんは血を流しています。でも、今回のような表現方法で描かれたその血は、「血」という記号でしかありません。このようなデフォルメされた絵になればなるほど、記号化という要素は強くなっていきます。画面上で、デフォルメされたキャラクターがどれだけ記号としての血を流し、傷ついても、胸に迫っては来ません。今回のような表現方法自体が悪いということではなく、もちろんそのような表現方法が適している作品もあるわけですけど、ことこの作品には向いていないということです。少なくともここだけ浮いています。例えば第六話での稲本さんの旦那さんが出てくるシーンのあのリアルな感じと比べると、同一作品だとは思えないくらいの落差です。
五十嵐海さんは『SSSS.GRIDMAN』の第九話の作画監督もされていましたけど、今回のような違和感を感じませんでした。それはひとえに、今作が『SSSS.GRIDMAN』よりもリアルな表現方法をとってきたということでしょう。『SSSS.GRIDMAN』は『SSSS.DYNAZENON』よりも、アニメ的でした。『SSSS.DYNAZENON』では、暦くんと稲本さんをめぐる大人なシーンやいじめというテーマなど、かなりリアルな世界観に寄せて作られています。そのような作品世界と今回の作画はやはり相性が悪いと、私は思います。
今回は、二つの軸のうちのひとつ、「登場人物たちにまつわる謎」が一応の決着を見る、非常に重要な回です。その重要な回がこのような違和感を持つ作画で表現されていることに私はとても深い失望を感じます。ああ、なんてもったいない。
ただ、幸いなことに、ツイッターやWebを見ていると、今回の作画はみなさん好意的に受け止めているみたいです。私は『SSSS.DYNAZENON』という作品自体、すごく好きなので、一般的な評判が下がったりしてほしくはないです。ですので、この文章を読まれた方で、もしも「あれ、第十話の作画って、そういう感じなの?」と思われた方、そんなふうに思わなくてもいいです。間違っても、SNSなんかでつぶやかないでください。おそらく一般的な評価は、好意的だと思います。ここは長いものに巻かれてください。この場合、多数の意見が正しいのです。なぜなら、多数の意見にお金が流れるからです。私はこの『SSSS.GRIDMAN』及び『SSSS.DYNAZENON』のシリーズ、とても好きなので、その作品世界が今後も広がるように、たくさんお金が流れてほしいのです。なので皆さん、積極的に私の意見は無視するようにしてくださいね。
真相を明示させない描き方 その2
第八話~第九話の感想で、私はこう書いています。「今作は、物事の真相をはっきりとした形で描かない、描くことが重要だとは考えていない演出方法が採られている、という気がします」「おそらく、香乃ちゃんの死とそれに関連した事柄(どうして急に発表会に夢芽ちゃんを誘ったか、など)の真相についてはなにがしかの描かれ方がなされるのでしょうけど、なんとなく、詳細で具体的な明示の仕方はされない気がします。」
やっぱり、そういうことでした。結局のところ、巻き戻った時間は香乃ちゃんが落下する直前で、その落下の真相は明らかにされません。香乃ちゃんがいじめに対してどう感じていたのかもはっきりとは語られません。でも、少なくとも自殺ではないことは明かされました。結局のところ、お互いのことをきちんと理解できいなかったということです。でもそれはとても難しいことで、仮に香乃ちゃんが死なず、彼女たちがお互いを理解しようとしたとしても、それが実るかどうかは分からない。ふたば先輩が視線をそらしたのも、香乃ちゃんの死に責任を感じているからなのか、早々と結婚したことへの後ろめたさなのか、よく分かりません。
暦くんの過去は、実際とは違う、でもありえたかもしれない過去として描かれています。ここでも、現実の世界で稲本さんはあのお札をどうしたのかまでは、分かりません。ただ、稲本さんはお金よりも、どこかへ行くことにウエイトを置いていて、でも暦くんにはそれが理解できていなかったということですね。
稲本さんのキャラクター、すごくいいですよね。おそらく今の彼女もあのときの彼女の持っている衝動、どこかへ行ってしまいたいという衝動を、まだ心のどこかに隠し持っているのでしょう。本人にどこまで自覚があるか分からないですけど。だから、高校生の恋バナに首を突っ込んでくるし、暦くんを勘違いさせるような言動・行動をするのでしょう。うまいですよね。稲本さんだけでお話一本作れそうです。
怪獣優性思想とガウマさんについては、たぶんこれからさらに詳細が語られるのではないかと思います。それは怪獣の存在と作品世界の成り立ちにかかわってくる、二つの軸のうちの一つ、「世界をめぐる謎」について、だと思います。残りあと二話。第十話でまとまっちゃった感がありますけど、ここからどう持っていくのか、楽しみです。