『SSSS.DYNAZENON』 第八話~第九話

©円谷プロ ©2021 TRIGGER・雨宮哲/「DYNAZENON」製作委員会

 早いもので、残りあと三話となりました。第八話、第九話は、これまでとは違った怪獣の出現がポイントですね。第八話は一見無害そうな怪獣(ハズレの怪獣)が出現、怪獣にも心があるのか? という疑問を蓬くんが持つというお話。第九話はちせちゃんと心を通わせることができる怪獣が出現、味方になっちゃうというお話でした。また、第八話では、ハズレの怪獣を操ろうとした蓬くんが、怪獣のコアに接触しかけるシーンがあったり、少しずつ核心に近づいている感じです。

 この怪獣の存在をめぐるお話は、ガウマや怪獣優性思想とも関連する、蓬くんたちがいる世界の成り立ちに関連する謎が徐々に解き明かされていくという軸です。この作品にはもうひとつの軸があって、それは、蓬くんたち、あの世界の住人である登場人物たちが抱えているもの、例えば夢芽ちゃんのお姉さんの死の真相に代表されますけど、その二つの軸があります。世界をめぐる謎と、登場人物たちにまつわる謎、の二つの軸です。今のところその二つの軸は大きく交わることなく、ぼぼ並行して流れています。最終的に、その二つが有機的に絡み合うと思うのですけど。

真相を明示させない描き方

 第九話の冒頭は、いきなりちせちゃんの中学校のシーンから。ここで、ちせちゃんがまわりの子たちから浮いている存在だったということが示されます。ちょっとエキセントリックな演出で、完全にリアルな回想シーンとはなっていません。普段隠されているちせちゃんの左手には、自分で描いたと思しき模様が刻まれています。でも、リアルな回想ではないので、本当にそうなのかは分かりません。もしかしたら、あの模様は何かのメタファーかもしれない。たぶん、多くの人は、ちせちゃんの隠された右手には、自傷行為の跡があると思っていたことでしょう。でも今後、実際にちせちゃんの左手にこのような模様が刻まれているのかどうか、作中ではっきりと示されることはないと思います。

 あくまでも第九話までの印象ですけど、今作は、物事の真相をはっきりとした形で描かない、描くことが重要だとは考えていない演出方法が採られている、という気がします。特に二つ目の軸、登場人物たちにまつわる謎については。ちせちゃんの感じている疎外感(それは暦くん含めたメンバーに対しても感じている)の根っこは何なのか、中学校時代に具体的にどういうことがあったのかは、はっきりと示されないし、そこまでは掘り下げられません。暦くんと稲本さんもそうです。札束を見つけて、暦くんが逃げ出した後どうなったのか、今のところは描かれていないし、詳細に示されない気がします。まだ分かりませんけど。

 登場人物たちにまつわる謎で最も大きなものは、夢芽ちゃんのお姉さん、香乃ちゃんの死の真相です。これも徐々に明らかになってきていて、でも、本当のところは分かりません。第九話では、香乃ちゃんと付き合っていた男性、ふたばくんが登場。でも結局のところ、自殺なのか事故なのかは分からない。ただ、「香乃はそんな人じゃない、自殺なんてしない」と言ったふたばくんは、視線をそらしてます。つまり、ふたばくんは何かを隠しているということですけど、それは死の真相についてなのか、それとも香乃という人間の知られざる一面についてなのか、分かりません。ふたばくんの結婚指輪を強調して見せているということは、少なくともふたばくんは香乃ちゃんの死を引きずっていないということです。もしかしたら、香乃ちゃんに対してあまりいい感情を持っていないのではないかとも読み取れますけれども、さて。

 ひとつ、第九話で示唆されている、と考えられることは、香乃ちゃんの死の直接的な原因は、やっぱり事故なのでは、ということです。水門の上から、落とした知恵の輪を取ろうとして、夢芽ちゃんは落下しました。もしかしたら、香乃ちゃんもそんなふうに落下したのかもしれない。落下のときに夢芽ちゃんの意識にインサートする香乃ちゃんのカットは、なんとなくそんな読み取り方をさせます。このときの夢芽ちゃんが取った行動みたいに、何か大事なものを守ろうとして死んでしまったのではないか、ということが読み取れそうです。もちろん、そうなった原因があの過去の映像にあったようないじめを直接的な原因としている可能性もありますけれど。そして、落下の途中で、夢芽ちゃんは何かを直感的に理解したのではないか。そんな気もします。

 おそらく、香乃ちゃんの死とそれに関連した事柄(どうして急に発表会に夢芽ちゃんを誘ったか、など)の真相についてはなにがしかの描かれ方がなされるのでしょうけど、なんとなく、詳細で具体的な明示の仕方はされない気がします。

音の演出

 あいかわらず音の演出が素晴らしいです。例えば第九話、校舎の片隅で花火大会に行かないのか、と夢芽ちゃんが蓬くんに尋ねるシーン。ここ、かすかに校内放送が流れてるんですね。内容までは聞き取れないくらいな感じで。たぶん、誰しもがこういう雰囲気、記憶の中にあるのではないでしょうか。こういう感じ、あったなーって思うのではないでしょうか。うまいですよね。

 同じく学校内のシーン、屋上でふたばくんと会う場面では、合唱の声がかすかに聴こえてきます。『少年の日はいま』ですね。第一話で夢芽ちゃんが登場したときに口ずさんでいた曲です。すごく抑制した使い方をしてます。たぶん、『はばたこう明日へ』も使われると思うのですけど、『SSSS.GRIDMAN』のときの『心の瞳』みたいにがっつりとした使い方はしないかもしれません。

 あと、ものすごく細かいことなのですけど、第八話でナイトくんと蓬くんが、いなくなってしまった怪獣を探して歩くシーン。歩道橋の階段の途中で先を行くナイトくんが、蓬くんを振り返る場面があります。そこで、ナイトくんが背中(っていうか腰)に装着している剣(?)が、歩道橋の手すりにぶつかって、カンッ、っていう音を立てるんですね。アニメーションですから、ここでこういう音が入っているということは、明らかに意図的にこういう音を入れているということです。では、どういう意図があるのか。私が思うに、ナイトくんのこの剣は明らかに『SSSS.GRIDMAN』に登場したキャリバーさんを意識していますよね。たぶん、ナイトくん(かつてのアンチくん)はキャリバーさんにあこがれていると思うのです。でも、まだキャリバーさんの領域にまでは達していない。たぶんキャリバーさんなら、剣を何かにぶつけることなんてしないけど、ナイトくんはぶつけてしまう。そういう、ナイトくんにはまだ未熟な部分があるということを表しているのではないかと思うのです。本当のところは分からないですけれど。

 残り僅かとなりました。たぶん今回も、『SSSS.GRIDMAN』のような、最後の最後で見事に風呂敷をたたんでしまう技が見られると思います。期待して待っていましょう。

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