始まりました、オーディションエピソード。初回の山場は愛ちゃんのジュリエットですね。泣きました。
役を演じるということ さらさちゃんその1
今回は原作五巻がほぼほぼ消化されています。あいかわらず取捨選択が絶妙にうまいです。ただ個人的には、二次創作が暴走するさらさちゃんのシーンがなくなっているのが残念です。そのさらさちゃんがティボルトの気持ちをつかむきっかけがAパートのポイント。さらさちゃんがあきらめなければならなかった歌舞伎への思いとティボルトの思いがシンクロする道筋へのきっかけが描かれます。これは原作のうまさですね。ほんと、うまいです。愛ちゃんの母親の言葉がヒントになるというのもいいですよね。
役を演じるということ 愛ちゃん
Bパートのポイントは愛ちゃんのジュリエットの演技です。恋というものが分からなくて演技直前まであせる愛ちゃんですけど、そこでこれまでのさらさちゃんとの出来事を思い出すことで、彼女への思いとジュリエットの気持ちを重ねることで説得力のある演技を引き出します。
私は前々回で、ラスト三話は「第一話から第九話までを費やして描かれてきた、彼女たちのこれまでが、演技に直結していく、彼女たちのこれまでがあったから、彼女たちなりの演技・芝居ができる、そのような脚本・演出」になると書きました。愛ちゃんのジュリエットのシーンはまさにこれです。
このシーンでは、これまで私たちが見てきたシーンが再び登場します。回想シーンの一種だと言えます。この回想は初めて出てくる回想ではなくて、見ている私たちも経験している過去なので、回想する当事者との感覚を共有しているという気持ちになります。ああ、そうだったんだよね、と思うんですよね、見ているほうも。
宮崎駿監督もここぞというところに必殺の回想シーンを使いますけれども(『未来少年コナン』の少女時代のモンスリー、『カリオストロの城』のルパンとクラリスの出会い、『紅の豚』の子供時代のジーナの記憶、など)、回想シーンはうまく使うと観客の心を本当に大きく揺さぶることができます。人は過去の記憶に囚われて生きている生き物ですから。
しかもこの愛ちゃんのシーンは、その過去の体験、過去の記憶が観客と共有されたうえで、さらにそれが演技として昇華されていく過程をも追体験していくという、言ってみれば、演技する者の内面を観客が完全にトレースできる仕掛けになっている、すごいシーンだと思います。もちろん原作がすごいんですけど、実際に映像作品となって、演技そのものをリアルに体験しちゃうと、さらにすごいです。泣きます。
次回以降は、同じように過去の出来事と演技とのシンクロが軸として展開していくと思います。ただ、次回以降は私たち観客が知らない、登場人物たちの過去の出来事が回想シーンとして出てくるはずで、それをどう料理しているのか、楽しみに待ちたいと思います。